あさがお にっき

小さな庭の記録や、日々のこと

夏の読書記録

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ちょっと前の写真ですが、今年もミディコチョウラン、咲いてきます。去年より早めの開花です。

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お迎えして3ヶ月ほど経ったヤムちゃん。うちにきた当初のビビリ具合から打って変わり、最近は警戒心ゼロのフリースタイルな寝相を楽しませていただいています。夜行性のため昼間はずっと寝ていて活動してる姿は少ししか見れませんが、この寝相を見ているだけで十分一緒に暮らす価値があります…カワイイ!

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↑なぜか左足を上げて熟睡しています

 

最近読んだ本

ニール・シュービン『進化の技法-転用と盗用と争いの40億年-』

コロナ禍で家で過ごす時間が増えたこともあってか、夫婦で(特に夫が)いろんな生き物を飼育するのにハマりつつあります。ヒョウモントカゲモドキのヤムちゃん、スネークヘッドのブルーちゃんを筆頭に色々な種類のお魚、川ですくったオタマジャクシから育ったカエルなどなど、気づけば庭だけでなく家の中でまでいろんな生き物たちと住んでるような状況に(!)

そんな中で生物学について改めて興味が出てきて読み始めたのがこちらの本です。

19世紀のチャールズ・ダーウィンの進化論から始まり現代に至るまで、歴代の研究者たちの知性と努力により明らかとなった研究結果がバトンリレーのように次々と紹介されていき、生物学の研究の歴史をたどるような構成で本書は進みます。

複雑で多様で、ときに不可能にも思える生物の進化の大まかな原則をつかむことは私たち一般の読者には相当難しいことですが、それを大胆にもわかりやすく説明する補助線として、劇作家リリアン・ヘルマンの「何事も、当然のことながら、私たちが始まったと思った時に始まっているわけではない」という言葉が用いられています。

たとえば太古の魚類が両生類へと進化し、悠久の時を経てやがて陸上へと進出していく。魚類がもともと持っていた浮き袋やひれが肺や四肢へと変化していくように、遺伝子や器官といったあらゆる階層において、古来の特徴を新しい用途へと「転用」する変異があったのだそうです。そうした陸上生活に適応するためのさまざまな変異は、意外にも進化の最中において一斉に起きていたわけではありませんでした。ヘルマンの言葉になぞらえると、長い時間をかけ、魚類の時代のあらゆる個体にあらゆる段階で引き起こされ、蓄積された変異の総体として進化が起きたといえる、ということなのでしょうか。(ちょっとまだ私の理解がおぼつかない)

本書のサブタイトルにもある「転用」「盗用」そして「争い」。これらは進化にまつわる重要なテーマとして取り上げられています。

たとえば、DNAのコピーエラーによる遺伝子重複(=サブタイトルにおける「盗用」?)。遺伝子に重複が生じることで特定の体の器官が強化され、より多くの機能が備わるようになります。ケラチンは爪、皮膚、髪の毛を構成するタンパク質の一種ですが、遺伝子重複により各組織に特化した多様な皮膚組織が生み出されるように。生物のDNAに重複をもたらす張本人として、DNA内に可能な限り多くの自分のコピーを増やそうとふるまう跳躍遺伝子の存在があると知り、SFのようだと思ってしまいました。絶えずゲノムをかき乱し、利己的にふるまい他の遺伝子たちと対立しつつもときに機能の進化をもたらす跳躍遺伝子は、まるでゲノム内のトリックスターのようです。

他の種との生存を賭けた「争い」。哺乳類の胎盤で重要な役割を果たすシンチシン、ハエからヒトまで多くの生物が持つ神経細胞間の伝達に関わるArcタンパク質。これらはいずれもHIVのようなウイルスの遺伝子由来のタンパク質であることが知られているそうです。ウイルスが宿主に感染して細胞を乗っ取ろうとしたつもりが、逆に宿主に乗っ取られ、増殖能力を封じられた上で結果的に宿主によって使役させられる羽目になる、という現象があるのだそうです。これも個人的に超びっくり。太古の単細胞生物が全く別の生物だったミトコンドリアのもととなる生物を取り込み、エネルギーを産生できるようになったことで多細胞生物への進化の道を開いたように、自己由来でなく、他の種の特徴を獲得することで進化の可能性の幅が一気に広まるのだそうです。つまりウイルスの使役に関しては遺伝子組み替えということなのですが、自然界で普遍的に起きてることなんですね。めちゃくちゃ不思議な世界すぎる...

DNAは情報であり、祖先から子孫へ受け継がれ、一から体を作り上げるための料理レシピのようなものです。悠久の時をかけて受け継がれるうちに、絶えず変化していきます。私たちは生きているだけで、日々数十兆個の細胞が分裂し、 DNAをコピーする過程で、あらゆる部位で突然変異が起きる。そして時に他の種から奪い取ったゲノムすら活用する。生存に適さない変異は異常として排除され、(またはがん細胞となり?)、便利な変異や無害な変異は残る。地球上のあらゆる生物が毎日、新陳代謝をする。そうしてありうる限りの可能性が試され、何代も世代を繋いでいって、消えていくもの、残り続けるものがあり…悠久の時をかけて起きたあらゆる階層の膨大な変化を遥か彼方から俯瞰したときに、緻密なグラデーションに彩られた巨大な多次元のモザイク画のように浮かび上がってくるものが進化ということなのかなあ、などと生物学をよく知らない素人が勝手ながら想像してみたりして。